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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)568号 判決

一 控訴人が本件特許権を有すること、本件明細書の特許請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであること及び本件発明は控訴人主張の構成要件AないしEからなるものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二 請求の原因4について

被控訴人が、イ号装置のうちDRC1600―1.25Kを輸入し、譲渡していること、ロ号装置<1>のうちDRC1200型を輸入し、製造し、譲渡していること、その余の形式を製造し、譲渡していること、ロ号装置<2>を製造し、譲渡していること、ハ号装置<1>を輸入し、製造し、譲渡していること及びハ号装置<2>を製造し、譲渡していることは、当事者間に争いがない。

三 そこで、本件発明と被控訴人装置とを対比する。

1 まず、被控訴人装置は、いずれも粒体被覆機であるから、本件発明の構成要件Eを充足することが明らかである。

2 次に、被控訴人装置が構成要件Aを即ち、「横型ドラム状回転容器の周壁数個所を適当な広さの多孔板で形成すること」との要件を充足するか否かについて検討する。

(一) 「周壁」について

成立に争いのない甲第一号証(本件公報)及び第二九号証(昭和四三年実用新案出願公告第一九五一一号公報)によれば、本件明細書においては、従来技術である右実用新案公報記載の錠剤被覆装置について、回転容器の最大外周部分(最大径をなす円筒形主筒部分)と回転容器両側のテーパ面部分(回転容器の前後面)との三部分をもつて、回転容器全体としていること、一方本件発明の構成要件Aにおける回転容器について、その数個所が適当な広さの多孔板で形成された周壁、開口部のある容器前面及び固定排気管側の容器後面の三部分で構成されるとしていることが認められる。

右認定事実及び前掲甲第一、第二九号証の各図面の記載とによれば、本件明細書上、従来技術の最大外周部分、回転容器両側のテーパ面部分と本件発明の周壁、容器前後面とがそれぞれ対応するものと認められるから、構成要件Aにおける「周壁」は、回転容器の最大外周部分を表す語として、本件明細書において使用されているものと認められる。したがつて、構成要件Aの「周壁」には「最大外周部分」のみでなく「テーパ部分」も含まれる旨の控訴人の主張は、採用できない。

(二) 多孔板の形成について

(1) 前記当事者間に争いのない本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、文理上、構成要件Aは、「<1>容器周壁の数個所を多孔板で形成すること、<2>右多孔板の部分は適当な広さであること」という容器周壁及び多孔板の構成を規定したものであることは明らかである。

(2) 前掲甲第一号証によれば、本件明細書及び図面には、本件発明について唯一の実施例が示されていること、発明の詳細な説明の欄には、その実施例について、「その回転容器の周壁に特定間隔で数個所に多孔板10を設け、その多孔板10(「多孔10」は誤記と認める。)部分を容器外周に突出するダクト11で被包してある。」(本件公報3欄八行ないし一〇行)と記載されていることが認められ、右記載及び本件公報の第1図及び第2図の記載によれば、右実施例では、容器周壁の四個所が所定の広さの多孔板で形成され、その周壁の他の部分には孔が形成されていないこと、右多孔板部分と無孔部分との割合はほぼ多孔板一に対して無孔部分四程度の割合であり、無孔部分の割合の方が大きいことが認められる。

(3) 以上の事実を総合すると、本件発明においては、多孔板は、回転容器の周壁の数個所を部分的に多孔板で形成するという構成に限られると解すべきである。しかも、構成要件Aの「周壁の数個所」及び「適当な広さの」との文言並びに前示実施例の記載によれば、周壁のうちその全面ないしほとんどが多孔板で構成されるような回転容器は、構成要件Aの「適当な広さの多孔板」には該当しないものというべきである。

なお、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二二号証(杉原正泰作成の意見書)及び第二五号証(稲積彦二作成の見解書)によれば、同各号証には、本件発明は回転容器の周壁全面が多孔板で形成されたものも含む旨の見解が述べられているが、しかし、右甲号各証によれば、これらの見解は、錠剤コーテイング装置の機能に着目して本件発明を位置づけようとしているものであることが認められるのであるから、右各見解は本件明細書の記載に基づいて本件発明の技術範囲を解釈しようとするものとはいえず、したがつて、右甲号各証は、前記判断を妨げるものではない。

(4) 控訴人は、本件明細書の発明の詳細な説明の欄における前記3欄八行ないし一〇行の記載は、単なる一実施例についての説明にすぎないのであつて、これによつて本件発明の構成要件が限定される筋合のものではない旨主張する。しかし、特許請求の範囲の記載は、明細書中の発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載するものであるから、特許請求の範囲の意義を解釈するに当たつて、発明の詳細な説明の記載及び必要に応じて図面の記載を参酌することは許されるものであるところ、前掲甲第一号証によれば、本件発明の特許請求の範囲に記載された「回転容器の周壁数個所を適当な広さの多孔板で形成」する構成要件に関して、多孔板の回転容器の周壁に対する割合について本件明細書に明確な記載がないことが認められ、本件明細書においては、前叙のとおり、唯一の実施例しか示されていないのであるから、その唯一の実施例の記載を参酌して本件発明の特許請求の範囲の意義を判断するのはむしろ当然であるので、控訴人の右主張は採用できない。

(三) 被控訴人装置について

被控訴人装置の構造を示すものであることが当事者間に争いのない本判決別紙各物件目録によれば、被控訴人装置は、いずれも、横型ドラム状回転容器1がその全周壁に分布した多数の細孔2をもつた構造であること、換言すれば、回転容器1の周壁全面が多孔板で形成されたものであること、ただし、ロ号装置<2>は、各辺のダクト側の辺の周囲に沿つて額縁状に帯状板16が直角に取り付けられ、帯状板16によつて、最大一つの列の穴が塞がれていること、ハ号装置<2>は、各辺のダクト側の辺の周囲に沿つて額縁状に帯状板16が取付けられ、帯状板16及びポールプランジヤーの取付部17は、穿孔されていないこと、右ロ号装置<2>及びハ号装置<2>の各帯状板により塞がれる孔は、各多孔板全体の孔の割合からすれば、その面積割合は非常に小さいことが認められ、しかも、右各帯状板を設けた場合と設けない場合と比較して、その作用効果上差異を生じることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人装置においては、回転容器の周壁の全面ないしほとんどが多孔板で構成されているものということができるから、構成要件Aを充足しないといわなければならない。

(四) 控訴人の主張について

(1) 控訴人は、被控訴人装置について、回転容器の周壁を形成する多孔板は、屈折部によつて区別されていれば、多孔板が連続していても当然に構成要件Aの「周壁数個所を多孔板で形成し」の要件を満たすことになるし、加えて、多孔板が、ダクトによつて被覆されていれば、そのダクトによつても、被覆するダクトに対応する多孔板毎に、明確に他の多孔板と区別されることになる旨主張する。

しかし、回転容器の周壁全面ないしほとんどを多孔板で形成した構成が構成要件Aに含まれないことは、前叙のとおりである。即ち、本件発明は、回転容器の周壁数個所を部分的に多孔板で形成し、その各多孔板部分を容器外周面から吸引ダクトで被覆することを要件としているものであることは前叙のとおりである。したがつて、前記被控訴人装置の構造を示すものとして当事者間に争いのない本判決別紙各物件目録によれば、なるほど、被控訴人装置は、いずれも、回転容器の周壁を形成する多孔板が、その屈折部又は吸引ダクトによつて多孔板部分毎に区別できるものであることが認められるが、そのことから直ちに、右各回転容器の周壁が右構成要件Aを充足するということはできないから、控訴人の右主張は採用できない。

(2) 控訴人は、また、本件発明においては、回転容器内における乾燥空気の流通を一定にし、無用な通風を排除することを第一の目的として、多孔板をダクトで被覆することとしたのであるから、多孔板からダクトを通して回転容器に排気するという、ダクトと多孔板の機能の観点からみた場合、多孔板はダクトに覆われることによつて、初めて意味をもつものである。したがつて、一つのダクトによつて覆われた部分の多孔板を一ユニツトの多孔板と考えるべきである。そうすると、「数個所」とは、回転容器の周壁に、一ユニツトの多孔板複数個が存在するという意味に理解すべきである旨主張する。

確かに、ダクトと多孔板との機能の面からみた場合、一つのダクトによつて覆われた部分の多孔板を一ユニツトの多孔板と考えることは可能である。しかしながら、構成要件Aにおいては、容器周壁の全面ないしほとんどを多孔板で形成した構成が含まれないことは前叙のとおりである。そして、前掲甲第一号証によれば、本件発明は、構成要件Aにおいて、容器周壁の数個所を部分的に多孔板で形成するという構成に限定し、その各多孔板部分をダクトで被覆して該ダクトを通して排気することにより、ダクトと多孔板との機能は十分に果たしうるものであること、右機能を果たすために、容器周壁の全面ないしほとんどを多孔板で形成し、これをダクトで被覆するという構成は必要ではないことが認められる。そうすると、一つのダクトによつて覆われた部分の多孔板を一ユニツトの多孔板と考えることができることが、構成要件Aの「数個所」を回転容器の周壁に一ユニツトの多孔板複数個が存在するという意味に解すべき理由とはならないから、控訴人の右主張も採用できない。

3 右に述べたとおり、被控訴人装置は、本件発明の構成要件Aを充足しないから、この点において既に本件発明の技術的範囲に属しないことになる。なお、イ号装置のうちDRC1600―1・25については、被控訴人において製造、譲渡、賃貸及び輸入していることを認めるに足る証拠はないので、本件発明の技術的範囲に属するかどうかの判断をするに由ない。したがつて、控訴人の本訴請求は、当審において追加した請求を含めて、いずれも理由がない。

四 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなく、また当審で追加した控訴人の請求も理由がないから、いずれも棄却することとする。

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